〜【ポリフォニーと和声】②〜
では、コダーイメソッドでは、この〝多声性〟(⇨合唱する力)を、一体どのようにして子ども達に身に付けさせてゆくのでしょうか?
さっそくその詳しいやり方についてご説明させていただきたい‥と思う‥のですが、その前に一つ、
是非、皆さんにお聞きしておきたいことがあります。 ‥それは‥、
↓
《そもそも、なんで子ども達に合唱をさせる必要があるのですか?》‥ということです。
‥と言いますのも、実は、この〝合唱させる〟ということが、音楽の先生方にとっては、けして簡単な作業ではないから‥なんです。
‥ ‥ ‥ ‥ ‥
例えば、よく日本の音楽の教科書には《〝もみじ〟を二部合唱で歌いましょう。》‥というような課題が載っていることがありますね。だいたい四年生ぐらいでしょうか。アルトがソプラノのメロディーの三度下の音を歌ってゆく‥というようなとてもシンプルな合唱なのです。‥が、
ろ (ソプラノ)まー い どー を るー つ ろ (アルト) まー い どー を るー つ
‥ところが、これがなかなか難しいのです。例えば、もしも新米の先生がこの〝もみじ〟を四年生に初めて教えたとしたら、恐らく次のような授業になってしまうでしょう。
┌───────── ↓ ────────┐
『さあ、これから〝もみじ〟を二部合唱で歌いますよ。まずメロディーから練習しましょう。さん、はい♪(‥ん〜、なかなかうまく歌ってるじゃないか‥きっと知ってた子も多いんだな?)‥じゃあ次はアルトの練習。よく知っているメロディーとはちょっと音の高さが違うから気をつけてね。いくよ。はい、どーぞ♪(‥おっ、ちょっと難しかったけど思ったより早く覚えられたぞ。俺の教え方が良かったのかな?)よーし!じゃ、あとは両方のメロディーを一緒に歌って合わせるだけ。さあ、みんな、頑張って歌おう。さん、はい♪(‥あっれ〜?なんで〜⁉︎‥さっきは両方ともあんなに上手く歌ってたのに‥⁈‥合わせたとたんにグシャグシャじゃないか!)どうしたどうした⁉︎‥みんなダメダメ!‥もう一度ソプラノとアルトに分かれてしっかりと音取りをして来て!‥じゃあもう一度合わせるよ。せーの!はい♪(‥え〜⁉︎なんで〜⁉︎‥全然きれいじゃない!‥どうしてなんだ⁈‥こんなこと何回繰り返してたっておんなじだよ〜。‥トホホホ‥)』
└────────────────────┘
‥と、まあ、多分こんな感じになるでしょう。
もちろん、ベテランの先生だったら最終的には上手く二部合唱に仕上げられるでしょう。‥が、しかし、それとても一回や二回の授業ですぐに綺麗になる‥というわけではなく、みなさん合唱の指導には相当な時間がかかってしまうはずです。
『こんなに時間をかけて、ワザワザ合唱にする意味があるのかなぁ?』『子ども達にこんな苦労させるぐらいなら〝もみじ〟のメロディーだけを気持ちよく歌ってた方が良かったんじゃないのかなぁ?。』『合唱にしなくて良ければ、その分、他の色々な歌を教えてあげる時間だってできたし‥。』
ついついそんなふうに思ってしまった‥そんな経験のある先生も多いのではありませんか?
‥いかがですか?
‥ ‥ ‥
しかし、コダーイメソッドでは、このような悩みが起きることはまずないでしょう。
何故ならば、〝合唱〟‥ということに対する考え方そのものが、日本で一般的に行われているものと、かなりの違いがあるからです。
その〝違い〟とは一体何でしょう?
何故に私たちは,すでに小学校のときから,子どもたちを多声性へと習慣づけることを重要だとするのか?何故に私たちは,子どもたちがそれぞれのパートをきちんとうたえることによって,それらパートをかなりの程度でいっしょに響かせることができる, という伝統的な合唱法で満足しようとは思わないのか? 何故に私たちは,一部の子どもたちとは言え、耳をふさいで自分のパートだけを“立て板に水を流す”ごとく,まちがいなく何度でもうたうようなカノン歌唱をきいて,快いと思わないのか? 以上のような問に答えるより以前に,ないしは,答えるよりはるかに重要なことがらがある : 《ヘルボイ·イルディコー『普通小学校における多声性,調性及び形式の教授』1976年ブダペスト》
例えば、先程の新米先生〝Sさん〟(※)の指導はどこがいけなかったのか?‥ということを考えてみましょう。
Sさんの失敗の原因‥、
実は、それは‥、
簡単に言ってしまえば‥、
《子ども達は別に合唱で歌いたい‥なんて思ってなかった》‥からです‼︎
(第18回につづく)
(※)実在の人物とは一切関係ありません。〝しんまいさん〟の〝S〟です。