〜《拍 と リズムの比較・統合》〜
もしも子ども達が、確かな〝拍〟の感覚を身につけていたとすれば、この先、より複雑なリズムを意識的に認識したり、さらにそれを楽譜の読み書きの学習に繋げていく‥ということはもう訳の無いことになります。
なぜならば、音楽のリズムというものは、とてもシンプルな原理で成り立っているからです。
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例えば、わらべうたのモチーフを使って考えてみましょう。
♩ ♩ ♩ ♩ な べ な べ ────────────────── ♩ ♪ ♪ ♩ ♩ ほーずき ばーさん
この2つのわらべうたモチーフのリズムの違いはどこですか?
そうですね。2拍目だけです。「なべなべ」は拍の通りのリズムであるのに対し、「ほーずきばーさん」は、2拍目が、ただ2つに分割されているだけです。
この違いを子ども達に意識させるのであれば、例えば上の「なべなべ」の拍のリズムを一人の子が太鼓で叩き、下の「ほーずきばーさん」のリズムを他の子が同時に手で叩いてみればよいのです。子ども達はすぐにその違いに気づきます。
♩ ♩ ♩ ♩ (誰かが太鼓を叩く) ───────────────── ♩ ♪ ♪ ♩ ♩(同時にリズムを叩く) ほーずき ばーさん
あとは、そのリズムの書き方を教え、さらに黒板に書かれたリズム譜を見ながら、もう一度そのリズムを叩きます。
┃ ┏┓ ┃ ┃ (※リズム譜を見ながら手でリズムを叩く)
このリズムを、よりはっきりと意識させるための方法として《リズム唱》というものがあります。これはフランスの教育家シュベが考案し、それをコダーイメソッドでも採用しているもので、リズムの長さそれぞれに別の発音を当てはめて口で言えるようにするのです。この方法を使うとリズムの読譜が容易になるばかりでなく、耳で聞いたリズムの楽譜像がすぐに頭に浮かぶようになるためリズムを書き取る力が格段に進歩します。
┃ ┏┓ ┃ ┃ (ターチチ ターター) (※リズム譜を指差しながらリズム唱をする。)
その逆の練習もしておきましょう。
「ターチチ ターター」 (先生がリズム唱する) ↓ ┃ ┏┓ ┃ ┃ (それを聞いて子ども達はそのリズムを手で叩く)
これをもしも《リズムの書き取り問題》にするならば、その手順は次のようになります。
「ほーずきばーさん♪」 (※先生がわらべうたの一部を歌う。) ↓ ┃ ┏┓ ┃ ┃ (※代表の子が、すぐにそのリズムを叩く。歌は歌わない。) ↓ 「ターチチターター」 (※他の子ども達は、それをリズム唱する。) ↓ (※口で言った通りにリズムをノートに書く。)
※尚、この最後の〝ノートに書く〟という部分を、ハンガリーではよく《人間リズム作りゲーム》として子ども達に楽しませている場面を見かけます。(※数人のグループで聞いた通りのリズムの形を作る。「ター」の部分は一人で立ち、「チチ」のところは二人で手を繋いで立つ‥等)
このように、コダーイの精神を生かせば教師の工夫次第で如何ようにも楽しい授業は作れるのですね。
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さて、以上のような原理を応用すれば当然、他の色々なリズムパターンも練習をすることができます。
もしも二ヶ所を分割すれば‥、
♩ ♩ ♩ ♩ な べ な べ ────────────────────── ♪ ♪ ♩ ♪ ♪ ♩ くま さん くま さん
三箇所ならば‥、
♩ ♩ ♩ ♩ な べ な べ ────────────────────── ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♩ おて ぶし てぶ し
‥のようになりますね。
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ここで皆さんに注目していただきたいことがあります。それは、これらのリズムパターンすべてが、既に子ども達が保育園の時から十分に親しんだわらべうたの一部であるという点です。
これがもしも、最初から単なる理論としてリズムの原理を教えるような授業になってしまったとしたらどうでしょうか?
とたんに子ども達の興味は失われ、退屈で窮屈な時間になってしまうことでしょう。
コダーイメソッドの大切な原則の一つに《生きた音楽から学ぶ》‥ということがあります。
保育園の頃からたっぷりと遊び、既に〝自分たちの音楽〟となっているわらべうたを使って学習することにより、子ども達はその楽しい思い出とともに、常に主体的に意欲的に、そして易々と、これらの知的な音楽課題もクリアーしてゆくことになるのです。
「音楽の要素を学ぶことなしに, だれも音楽を理解することはできない。この要素をどこで学ぶことができるのか? それは学校だけである。すべての人に,音楽の王国の鍵を伝えるのは学校の義務である。大切なことは, 正しい門をくぐることにある。この音楽の王国に行くには, たくさんの門があるからである。ある人は何年も探し求め,またある人は,すぐに正門を見つけるかもしれない。 そして学校は読み書きを教える以外に,よい音楽と悪い音楽の違いを感じさせなければ,目的が果たせたとはいえない。 (コダーイ『音楽教育の改革について』1954年)
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さて、この《生きた音楽から学ぶ》という原則を応用することは、次の《音程の学習》を進めていく上ではさらに重要な事柄となってきます。
《人間リズム作りゲーム》に関して。
この春に東京と名古屋でワークショップを催す予定になっていたバーンキ・ヴェラ先生。この《人間リズム》についての彼女の考えも、そこでみなさんに伝えるはずでした(今の状態が収まれば11月に、そうでなければ春に開催予定です)。
ヴェラ先生は、<子ども1人が1拍>という考えです。titi(八分音符二つ)を2人で手をつなぐのではなく、両腕を上に挙げ、手首を中に折り曲げ指先を合わせるという方法です。
このほうが子どもが戸惑わないのではないかと思います。
シンコペーションですと、両腕を挙げた2人の、先の子の左手と、次の子の右手をつなぐという方法です。
ありがとうございます!私も是非ヴェラ先生の講習受けたいです。コダーイメソッドはけして固定化された狭いものではなく、教師の創意工夫次第でいくらでも多彩な楽しい授業ができるのだ‥ということを日本の皆さんにも知っていただきたいですネ。^ ^