〜③【聴感の発達と移動ド唱法】〜
音楽の要素として大切なことには、リズムの他にも《音の高さ》‥ということがありますね。
子ども達には、この《音の高低》についても、より意識的・客観的に認識できる力を身に付け、また、それが音楽の読み書きの力にも繋がってゆくようにしなければなりません。
そして、その時にも(‥前回述べた‥)【生きた音楽から学ぶ】という原則が大変重要な意味を持ってくるのです。
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例えば‥よく〝小さいうちから絶対音感を付けることが大切だ〟という考えの音楽教育の流派がありますよね。つまり、子ども達が、単独の音を聞いて〝G♯だ〟とか〝E♭だ〟‥とか、すぐにその絶対的高さが分かるようにしなければならない‥という考え方です。このような能力は、ピアノや音叉が無くても音が取れるようになる‥という意味では大変役に立つでしょう。
ところが、コダーイメソッドでは小さな子どもにそのような訓練をする‥というようなことは無いのです。なぜなら、それは〝生きた音楽〟とは考えないからです。‥‥‥
生きた音楽を捉える‥という意味では、その音の絶対的な音高が分かるよりも、その音の高さが、そのメロディーの中で一体どのような役割を持っているのか?そして他の音とどのような関係の高さになっているのか?ということを感じられるようにすることの方が大切です。
そのようなことを感じる能力を、ちょっと難しい言葉で《相対音感》と言います。
コダーイメソッドでは子ども達には、まずこの相対音感を育てることが大切だ、と考えているのです。
そして、この相対音感を身に付けるための優れたツール。それが《ソルミゼーション➡︎移動ド唱法》です。
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ソルミゼーションの各音の名前は絶対的な音の高さではなく、音階上の機能・性格を表しています。
{長調の場合}‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 主音 Ⅱ Ⅲ 下属音 属音 Ⅵ 導音 do re mi fa so la ti
{短調(自然音階)の場合} ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 主音 Ⅱ Ⅲ 下属音 属音 Ⅵ Ⅶ la ti do re mi fa so
ですから、このソルミゼーションを使って歌えば、子ども達が‥、
①どの高さに移調して歌っても、そのメロディーの音程関係をすぐに‥簡単に‥正確に把握して歌うことができる。
‥ばかりでなく、
②その調の中での、その音の性格までをも瞬時に感じ取り、より〝生きた音楽表現〟をすることができるようになる。
‥といった利点があります。
『移動ドは転調の理解と,メロディーの各音の音楽的意味を理解するのに役立つ。これなしでは真の音楽性は不可能である。』 〜コダーイ『聴衆の教育』(1957年)〜
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(※さらに‥これはちょっと余計なことかもしれませんが‥)ソルミゼーションを使って歌っていますと、ピアノの平均律の音程と、純正律の音程との微妙な差異までもが感じられるようになってきます。
{長調の場合} ┏━━━━純正長三度━━━━┓自然半音 ┏ 大全音 ┓ ┏小全音┓ ┏━┓ do re mi fa ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ do re mi fa └小全音┘ └ 大全音 ┘自然半音 {短調の場合}
後に高学年になって合唱の練習をするような時に、ソルミゼーションの能力を獲得した子ども達の方が格段に美しいハーモニーを作ることができる‥というのは、おそらくこのような理由によるものでしょう。
『われわれのほとんどの歌唱指導者と合唱団のリーダーは,ピアノに合えば,音程の問題はすんだもの,と信じている。今日の,ピアノ=アコーディオン文化,すなわち非文化においては,合唱の清潔さが,純正調の清潔な音程に基づいており,したがって,平均律に調整されたピアノの音程とは,全く無関係であることが,すっかり忘れ去られている。』 〜コダーイ『清潔に歌おう!』のまえがきより(1941年)〜
『…ピアノの音で歌手の間違いを直してはいけない。イントネーションの正確さは, 移動ドによって,各音の調的感覚を理解することによってのみのばすこどが可能である。』 〜コダーイ『エピグラム』の解説(1963年)〜
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さて、このソルミゼーションの能力を導入期の子ども達に身に付けさせる方法についてなのですが‥、これは大変おもしろいことに各国(各民族)ごとにその手順が微妙に異なってきます。
>ソルミゼーションは〝純正律〟の音程の微妙な差異までをも表すことができます。
この文章ですと、ソルミゼーションさえすれば微妙な差異を自然に歌えるようになる、と受け取られかねません。長くなりますがやはり以下の説明が必要ではないかと思います。ちょっと理屈っぽくなってしまうでしょうか?
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固定ドに比して、ソルミゼーションは純正律の音程の微妙な差異を意識することが容易にできます。純正律で歌うには、ソの環境にあるレ(言い換えれば、長調におけるレ)はドよりもミに近く、つまりピアノの音より高めにとります。また、ラの環境にあるレ(短調におけるレ)はミよりもドに近く、つまりピアノよりも低めにとります。
どの場合にどの音高を歌えばよいか分かりやすいのが、ソルミゼーションのよい点です。
伊藤先生、ありがとうございました!記述を少し修正させていただきました。^ ^
(ソ⇆に対する音程の違いについては、ここでは長くなりますので後述にさせていただこうかとな思います。)