〜《ペンタトニックから全音階へ》〜
『なんで〈fa〉や〈ti〉の音を教えないんだ⁉︎』‥
『ソルミゼーションが大切だ…と言っておきながら、〝ドレミファソラシド〟の全部の音を教えないなんて‥⁉︎‥ちょっとおかしいんじゃないの⁉︎』
‥疑問に思われている方もいらっしゃるかもしれませんね。
わかりました。では、皆さんにご安心頂くため、先に、長調や短調に繋がる〈fa〉や〈ti〉の音をどのように意識化してゆくのか?その例を少しご紹介しておくことにいたします。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
【 fa 】の意識化のための活動(例)
‖: │ │ │ │ :‖: │ │ │ − :‖ ソ s— ? (?) ミ m m レ r ド d d (おきろよ) (あ さ だー) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 《第一段階》 ‥まず歌詞で歌います。〔生きた音楽の原則〕を思い出し、この歌をどうやったら子どもたちと楽しく十分に歌えるか?を考えます。(‥例えば、導入時に先生がテレビフランス語講座のフランス人先生の真似をして歌って聞かせてあげられば大ウケ間違い無しです。※万が一、スベッても責任は持てませんが。) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 《第二段階》‥ カノンでも歌います。(2人組で発表するとか、グループで練習する等、これも楽しいやり方を工夫して十分に歌います。) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 《第三段階》‥ 様々な歌遊びを利用して、歌の清潔さを高めます。(…例えば、・先生とみんなで4拍ずつ交互唱。・もしも先生が替え歌したらその言葉通り歌い返す。・歌の途中で突然指名された人が歌い継ぐ。・指揮の子の指示通りにだんだんクレッシェンドしたりディミニュエンドしたりして歌う。・先生が合図した部分だけサイレント唱にする。・先生が歌い出したのと同じ高さ(=調)で、すぐに歌い継いだりカノンにしたりする…etc.) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 《第四段階》‥ ソルミゼーションで歌います。(・習っていない音がどこにあるのかを皆んなで探す。→・fa のソルミゼーションとハンドサインを知る。→・先生が1人でソルミゼーションで歌うが、fa が出て来たらみんなで歌う。→・先生がハミングで歌うが途中で止まった音をみんなでハンドサインしながらソルミゼーションする。→・みんながそれぞれ〈do re mi fa so 〉のどの音を歌うかを決め、分担して全曲ソルミゼーションする。※はじめは楽譜やレター譜を見てもよいが2回目は何も見ずにやってみる。←※これを1人1音ずつ担当して皆んなの前でやればそれを『人間ピアノ』と呼びます。さらに、その《ピアノ?》を弾く係の子を決めてみんなの前で《弾いて》もらえば、ちょっとした楽しい劇遊びみたいになります。‥etc.) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 《第五段階》‥ 音列で歌う。(・この歌で使われている音を調べ黒板に文字で縦書きにする。→・その音列を指差しながら下からや上から、あるいは往復に順番に歌う。→・(同)一つおきにサイレント唱にしたり先生の指定した音だけサイレント唱にしたりしても歌う。→・2つ遅れや4つ遅れのカノンでも歌う。→・先生が違う高さ(=違う調)で歌い出してもみんなはその高さでカノンする。→・先生が指差した音(単音)をすぐにソルミゼーションする。→・みんながそれぞれ思った音をイッセーのセで同時に歌う。(クラスター唱)→・先生が黙って2つ〜3つの音を連続して指差すのを見て内唱し、その後すぐにソルミ唱する。→・誰かがどれか2つの跳躍する音を選びハンドサインしながら歌う。他のみんなはそれを聞いて反対から歌う。→・誰かが3つの音を連続で歌い、次の人はその最後の音からまた3つの音を選んで歌っていく。←『音のしりとり遊び』‥etc.) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 《第六段階》‥※上の《第五段階》と同様のことを黒板に書かれた五線上の音符を指しながらでもやる。 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 《第七段階》‥この歌の《ミファソ〜♪》‥の部分だけ楽譜を消しておき、そこの部分をノートに書いてみる。五線上の他の高さでも《ミファソ〜♪》‥が書けるか?‥あるいはフィンガーサインをしながら色々な高さで《ミファソ〜♪》が歌えるか?やってみる。
‥ ‥ ‥ ‥
以上のようなアイデアはもちろん教え方の一例に過ぎません。が、その多くは、ペンタトニックの新しい音を導入する時にも応用できますので是非ご参考になさってみてください。
‥また、〈ti〉の音を意識化する時には、下のロシア民謡のような教材を選ぶとよいと思います。ペンタトニックの《ミレドラ》の音が既に身に付いている子どもたちにとっては新しい音を理解するのは、もう何でもないことになるはずです。
┏┓ ┏┓ ┏┓ ┏┓ ┃ ┃ ミ mm mm レ rr ド dd ? (?) ラ l (のはらにしらかばのー木ー)
‥ ‥ ‥ ‥ ‥
さて‥、
こんなに詳しくご説明をしておいて、申し上げるのは‥
大変恐縮なのですが‥、
やはり…、
〈fa〉や〈ti〉のある全音階(⇨長調や短調の音階)を、あまり慌てて教える必要はないと思います。
よくよく考えてみたら、私たちの民族には何百年も何千年も(‥もしかしたら何万年も⁉︎‥)五音階の世界で歌って来た長い長い歴史があるわけですよね。そしてそのような感覚‥と言いますか‥遺伝子みたいなものはきっと子どもたちの中にもあるんだろうと思うんです。それをもっともっと十分に楽しんでから長調や短調の世界に進んでも、けして遅くはないのではないでしょうか?
『半音がないほうが、清潔にうたうことがやさしい。全音階の梯子を順に伝って上がったり下がったりするより,適当に跳躍の混ざった音程進行の方が,音楽的把握力と正しい音程を感じ見つける能力をより発達させる。』 〜コダーイ『五音階の音楽』第1巻のあとがき〜
「早くから(半音のある)全音階をうたうことにならされたこどもは,のちに決して,正しい音程でうたうようにならない。そのようなこどもたちのうたをきくと,せん細な耳には,必ず,ミーファのあたりがあいまいにきこえる。しかし,はじめにペンタトニックの5つの大事な音(ドレミソラ)をしっかりとつかまえたこどもは,あとから,適切な時期に,上からでも,下からでも,らくに半音(ファ,ティ)をそこにはめこむことができる。」 〜ボーニシュ・フェレンツ編『コダーイ回顧録』第1巻よりP.70〜
『私たちは, 5音階性にもっと深くひたることなしに,ハンガリ一民族音楽の生んだ諸傑作にこれ以上迫ることはできない。』
『ある時期、5音階の音楽だけの中に浸ったことがある子どもは,ハンガリーの音楽の根本的なふし回しを自然であり、美しいと感じることができる。もし、この時期の前に、インド·ゲルマンの音楽的感覚を彼らのうちに注ぎ込むなら (…そして、今までの学校の音楽教育は,これ以外のことをしてこなかった…)彼らは,ハンガリーの音楽をも、例外的なもの, 無理なもの, いや,さらに異質なものとして感じても仕方がない。ハンガリーの子どもたちを, 何とかして自分の家に連れ戻す義務と使命がある。そうすれば, その子たちが大人になったとき,ハンガリーの音楽の雰囲気をアット·ホームだとも感じるようになるのだから。 〜『五音階の音楽』第1巻のあとがき(1947年)より〜
‥ ‥ ‥
さて、これまでのお話の中にも、子どもたちに楽譜の読み書きの力をつけるための方法については色々と出てきましたね。皆さんにも大分ご理解いただけたものと思います。そこで、ここで一度、その系統的な指導方法‥、そして、また、コダーイが何故この音楽の読み書きを重要視したのか?‥ということについても少しまとめておきたいと思います。
日本の五音階の世界はとても豊かです。
半音を含まない五音階と半音を含んだ五音階がそれぞれ3種類ずつ、計6種類もの五音階があります。半音がある方の音階は、どれもドレミソラで構成されて、民謡・律・呂音階です(終止音によってこの3種類が区別されます)。
半音がある方の音階は、都節音階と呂陰音階(ドミファラティ)と沖縄音階(ドミファソティ)です。
(比較しやすいように、どれもドから書きました。)
そこで私が言いたいのは、ミとファを教えるのになぜヨーロッパの歌を使うのかということです。自国の歌から始めるというコダーイの考えを踏襲するのであれば、日本のわらべうたにたくさんある半音を含む歌を使ってミとファを教えるべきではないでしょうか。
伊藤先生、貴重なご意見をいつもありがとうございます!
おっしゃること全く賛成ですしよくわかります。
ただ、ここでこのような内容にさせていただいた理由は、
●日本では『コダーイメソッドでは西洋の音階に繋げられないのではないか?‥』と思って敬遠していらっしゃるような方も多いようなので、まずそのような方々の誤解を急いで解く必要があった。
●日本の音階でfaやtiを意識化した場合でも、その後、長調や短調を歌う前には、どちらにしろ今回の記事に書いたような活動は必要になるし無駄にはならない。‥という観点からです。
日本の音階でfaやtiを意識化する方法も是非研究させていただき、一般の皆さんにわかりやすく説明できる段階になりましたら発表させていただきたいと思っておりますのでその時は是非よろしくお願いいたします。
『コダーイメソッドでは西洋の音階に繋げられないのではないか?‥』
→ 繋ぐ必要はないでしょう。日本あるいは各々の民族音楽と西洋芸術音楽はまったく別の体系のものだ、という発想をしなければならないと考えます。
自分の属する文化と違う文化がある、どこがどう異なるのかということ教えることが大切でしょう。
自国のわらべうたから民謡へ。それぞれの民謡にはその文化と歴史的背景があります。そこをしっかり教えることが自国の文化を知らしめることにつながります。音楽だけの狭い部分を指導することが音楽教育の目的ではないはずです。
この部分は、ハンガリーの音楽小学校の教科書では見事に展開されていますので、参考にしたいものです。
日本の民謡を歌える年齢・レベルになったら、並行して(!!!)他の民族の民謡、そしてヨーロッパの芸術音楽に進むことが正しい在り方だと私は考えます。
コメントありがとうございます。
↓
〉日本の民謡を歌える年齢・レベルになったら、並行して(!!!)他の民族の民謡、そしてヨーロッパの芸術音楽に進むことが正しい在り方だと私は考えます。
↑
???私も全く同じ主張をしているつもりなのですが‥?
例えば、このような表現ではどうでしょう?
↓
・西洋の音楽を歌う前には、十分に日本の五音階の歌を歌っておくことが大切です。
・そしてもちろん西洋の音階を習った後にもそれは続けてゆきます。
※尚、この記事で述べている〈fa〉や〈ti〉が、日本の音階の中に出てくる〈fa〉や〈ti〉のことではない!‥ということを明確にするために、本文を次のように修正させていただきました。^^
↓
『‥長調や短調に繋がる〈fa〉や〈ti〉の音をどのように意識化してゆくのか?その例を少しご紹介しておくことにいたします。‥』