〜音楽の読み書きの指導②〜
『読むことの能力が, 今まで信じられていたように, 楽器を習っていれば, その途中で自然に身についてくる,という考え方がどうも間違っているらしいということは,われわれのよき器楽教師諸君によっても,ようやく気づかれ始めたようだ。まことにそうであって,楽器奏者も,歌手も,同様に,楽譜を読むということを,別に習わなければならない。と同時に,すべての四肢五体の健全な子どもは,これを身につけることができる。』 〜『333の読み方練習』のあとがき〜
子ども達に〝楽譜の読み書きの力〟を身に付けさせてゆくには系統的で地道な指導が必要になります。
しかし、そこにはいくつかの基本的な原理・原則(‥コツのようなもの?)もあり、それを理解してさえいれば、その指導はけして難しいことではなくなると思います。そこで、そのことについてもここでちょっとまとめておきたいと思います。
例えば‥、
〜〜〜〜〜〜その①〜〜〜〜〜〜〜
【読むこと⇄書くこと の原則】
楽譜を〝読むこと〟と〝書くこと〟は、実は全く同じことの《表》と《裏》の関係にある‥ということがおわかりになるでしょうか?
↓
【読む】⇨楽譜を見て音にする。 【書く】⇨音を聞いて楽譜にする。
‥つまり、
↓
【A.音】 ⇄ 【B.楽譜(像)】
このAとB、双方向からの行き来が自由自在に出来るようになった時、‥それが、すなわち子ども達が《読み書きができるようになった》‥ということになりますよね。
ですから、この「読むこと」と「書くこと」を常に相互に関連づけながらバランスよく子ども達の活動の中に組み入れてゆくことが1つのコツと言えるでしょう。
次のような授業を例に見てみます。
┃ ┃ ┃ ┏┓ ┏┓ ┏┓ ┃ Z たい せん どー も な‥ いっ かは お
①みんなで『いっせんどーかは』を歌いながら楽しく門くぐり遊びをしましょう。 ↓ ②歌いながら歌のリズムを叩いてみましょう。【⇨書くことに繋がる】 ↓ ③黙って歌のリズムだけを叩くことができますか?【⇨書くことに‥】 ↓ ④この歌のリズム譜を見ながらリズムを叩けますか?【⇨読む】 ↓ ⑤今度は叩かずにリズム唱してみましょう。【⇨読む】 ↓ ⑥何も見ずにリズム唱できますか?【⇨書く】 (先生はみんなが歌った通りに黒板にそのリズムを書いてゆく。)【⇨読む】 ↓ ⑦レター譜を指差しながらソルミゼーションで歌いましょう。【⇨読む】 ┃ ┃ ┃ ┏┓ ┏┓ ┏┓ ┃ Z ⭕️⭕️ レ レ ⭕️ ⭕️ ド ドド ⭕️ ↓ ⑧ ⭕️の中の音はソルミゼーションを考えながら歌いましょう。【⇨書く】 ↓ ⑨この歌の五線譜を見ながらソルミゼーションしましょう。【⇨読む】 ↓ ⑩楽譜を見ずにソルミゼーションできますか?【⇨書く】 ↓ ⑪『おもたいな〜♪』‥の部分の楽譜を (何も見ずに)ノートに書いてみましょう。【⇨書く】 ↓ ⑫自分の書いた音符を指差しながら歌ってみましょう。【⇨読む】 ↓ ⑬ 次のモチーフカードのうち『おもたいな〜♪』のモチーフはどれでしょう?【⇨読む】 ❶ ┏┓ ┏┓ ┃ Z m r d d r ❷ ┏┓ ┏┓ ┃ Z d r m m r ❸ ┏┓ ┏┓ ┃ Z d r m r d ↑ ⑭他のカードも読んで歌えますか?【⇨読む】 ↓ ⑮先生が❶❷❸のうち、どれかのモチーフをハミングします。(わかったら、すぐにソルミゼーションで歌い返しましょう。)【⇨書く】 ↓ ⑯先生は、このカードに無いモチーフもハミングしますよ。(1人ずつソルミゼーションで歌い返せますか?)【⇨書くことに繋がる】 ↓ ⑰みんなも新しいモチーフを即興で作って歌ってみましょう。(m r d の範囲で…)【書く⇨作る】 ┏┓ ┏┓ ┃ Z ?????
このように、「読むこと」と「書くこと」は、同時に関連づけ合いながら指導してゆくことが可能ですし、またそれらは、むしろその相乗効果によって、大きな成果を上げてゆくことにもなります。
‥ ‥ ‥
そして、さらに、( 皆さんも既にお気づきだとは思いますが‥)この指導例の中には、他の重要な原則もいくつか見て取ることができます。
↓
〜〜〜〜〜〜その②〜〜〜〜〜〜〜
【リズム と 音 の統合の原則】
「リズム」と「音の高さ」は、楽譜の読み書きを習得する段階では、それぞれ別々に指導する必要があります。しかしもちろんそれらは最終的には1つに統合されてゆかねばなりません。
↓
〜〜〜〜〜〜その③〜〜〜〜〜〜〜
【よく知っている歌から、新しいメロディーへ の原則】
今の指導例の中にも《生きた音楽の原則》が十分に生かされていることがわかりますね?‥つまり、はじめは今までにたっぷりと遊び、歌ったことのある歌を使っています。それによって、子ども達は十分な自信を持って課題に取り組んでゆくことができます。しかし、それは次第に普遍的な課題‥つまり、今までに知らなかったようなどのようなメロディーにでも対応できるような力に広げてゆかなければなりません。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
‥以上のような、3つの原則を、皆さんがわかりやすいように1つの図に‥まとめて‥みよう‥と思ったのですが‥これがちょっと難しい。だって、とても平面の図では表せませんでした。(‥一応やってみましたが。)
↓
(よく知っている歌で‥)
↓
リズム ↓ リズム
読 ↓ ↓ ↓ 書
む ↑ ↓ ↑ く
音 ↓ 音
↓
(はじめてのメロディーでも‥)
‥ ‥ ‥ ↑
‥いずれにせよ、このような原理をしっかりと頭に入れておくことは、指導者にとって(‥そしてもちろん子ども達が楽しい授業を受けられるようになるという上でも‥)大変役に立つと思いますので、是非ご参考になさってください。(※この機会に、ご自宅でこの立体図を作成してみる‥などというのはいかがでしょうか?)
『毎時間,各レッスンは何よりもまず生徒が苦労を感じるようにではなく,その実力の増していくのを感じ,そして次の時間が待たれるように構成されなければならない。』
〜『ソルフェージュ教授法』に寄せた序文〜
『必要なのは,昼飯の合図があってもすぐには手を休めない左官屋のような音楽教師である。必要なのは,教師の義務としては不必要な,しかし,実は,教師本来のしごとに身も,魂も,意味をも与える余分なしごとをすることが、生きるための必然であるような教師だ。そのような教師が実際にいることも,私は知っている。ここで,余分なしごとというのは,教師に関してだけである。生徒にとっては,反対に,より少ない苦労とより多くの喜びでなければならない。』
〜コダーイ『子どもの合唱』(1929年)〜
‥ ‥ ‥
さて‥、
大変お待たせしました。
ここから先は、いよいよポリフォニーとハーモニーの話に入っていきます。
コダーイメソッドで育った子ども達が、どうしてあのような美しい合唱ができるようになるのか?‥その謎にも迫っていきましょう。
(第16回につづく)
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