コダーイメソッドとは何か?《連載第18回》

〜【ポリフォニーと和声】③〜

 何故に私たちは,すでに小学校のときから,子どもたちを多声性へと習慣づけることを重要だとするのか?何故に私たちは,子どもたちがそれぞれのパートをきちんとうたえることによって,それらパートをかなりの程度でいっしょに響かせることができる,という伝統的な合唱法で満足しようとは思わないのか? 何故に私たちは,一部の子どもたちとは言え、耳をふさいで自分のパートだけを“立て板に水を流す”ごとく,まちがいなく何度でもうたうようなカノン歌唱をきいて,快いと思わないのか?

《ヘルボイ·イルディコー『普通小学校における多声性,調性及び形式の教授』1976年ブダペスト》

 日本で一般的に行われている合唱指導とコダーイメソッドのそれとでは、その基本的な考え方にいくつかの違いがあります。

 その最も大きな違いは、子ども達の〈合唱に対する要求の育て方〉‥でしょう。

 つまり、コダーイメソッドでは、低学年のうちから様々な手立てを駆使して子ども達に、この〝合唱をしたい〟という気持ちを、少しずつ無理なく育ててゆくようにします。

‥ ‥ ‥

 もちろん日本の学校でも〈自らの頭で考えて主体的に音楽表現できる子どもを育てよう〉‥と先生方は日々努力しているわけですが、しかし、こと〝合唱〟となると、その力をつけるための手立て・段階があまりにも複雑で多くあるため、中、高学年になってから慌ててその指導を始めても、すぐにはなかなか美しい響きを作ることができない‥ということになってしまいます。

 その点、コダーイメソッドでは、小さいうちから、少しずつその年齢に応じた無理のない活動をしてゆきますので、子ども達は自然に合唱が好きになってゆく‥とともに、その作り上げられた音色・響き自体も、とても柔らかく聞いていて心地よいものになってゆきます。

‥ ‥ ‥

 ‥そこで、『じゃあその段階は一体どうなっているのか?』‥ということになるわけですが、‥これは、その〈段階?〉というよりも、むしろ合唱のその〈要素〉別に考えていった方が分かりやすいと思います。つまり…

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【A】清潔なユニゾンを作り上げてゆくことによって‥

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【B】様々なポリフォニー様式に少しずつ慣れてゆくことによって‥

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【C】移動ドによる読譜力を存分に活用してゆくことによって‥

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‥この【A】【B】【C】3つの要素を段階的にうまく組み合わせてゆくことによって子ども達の合唱の力は育つ‥、そのように考えていただけばよいでしょう。

 では、そのような観点で順番にご説明させていただきます。

 ‥ ‥ ‥

 まず【A】からです。

‥ ‥ ‥

 〈美しい合唱を作る〉‥その一番の基礎は、実は清潔なユニゾン‥すなわち声の統一‥ということにあります。

『高水準の合唱の響きとして、第一に求められるのは均等性である。「均等性」とは、各々の声部や合唱団全体の “声づくり” の統一を意味し、音色,イントネーション·デュナーミクの観点から一様にすることである。即ち、単に声が混じり合うのではなく、それはうた声の溶け合い、新たな性質の出現、各々の声の輝き、流れる力、美がいっそう高度にまとめられての再生、完全なる融合なのである。そのための条件として、声が均等に保たれ、しかも響きの全体に、絶えずコントロールしながら声を「配分」すること、母音を同一に形づくること、音色の文化(変化)、加えて微妙なイントネーションの相違をも識別できる敏感で訓練された耳をもっている事があげられる。周知の通り、これ等は日ならずして容易に習得できるものではなく、既に成果が得られたものにさえ、日々積み重ね、くり返して行かねばならない。』

〜カルドシュ・パール『合唱の育成・合唱の響き』(1977年 ブダペスト) P、7〜

(第19回につづく)

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