〜【ポリフォニーと和声】④〜
美しい合唱を作るための、その一番の基礎となるもの。‥それは実は〈清潔なユニゾン〉です。
つまり、複数のパートに分かれて歌うより以前に、まず単一のメロディーを一体どのくらいみんなできれいに揃えて歌うことができているのか? ‥それがポイントになるということです。
‥ ‥ ‥
もともと古い日本語の〝合唱〟という言葉には、〝複数のメロディーを合わせる〟というような意味は無かったようです。今でも〝独唱〟に対して、ただ大勢で声を合わせて歌うような場合〝みんなで合唱しましょう!〟‥などと言ったりしませんか? 民謡などにもよくありますよね。まず一人のおじさんが朗々と歌い出し、それに次いでその他大勢の人達が一斉に声を揃えて歌い出す。‥あるいはグレゴリオ聖歌のレスポンソリウムなどもそのような形の一種でしょう。
そのように人間には、この〝大勢で声を合わせて歌う〟ということに不思議な力を感じ、それを楽しんできた‥といった歴史があります。
ですから、子ども達が合唱の力(⇨多声的な力)を身に付けてゆく上でも、その基本⇨〝原点〟となるのは、やはりこのユニゾンです。
ユニゾンが自然に美しく歌えるようになっていなければ、どのような多声的な歌唱も、その上に構築してゆくことができません。
そして、このユニゾンの美しさ、楽しさを子ども達に十分に感じさせ、また、その力を確実に身に付けてさせてゆくための最も効果的な方法、‥それが、実はやはり〝わらべうた〟なのです。
『子どもの遊戯うた(=わらべうた)ほど,民族音楽の原始時代に深い光を当ててくれるものはない。』
『ちょうど子どもが, その発達の諸段階の中で,人類が今までにたどってきた発展を短く,急いで繰り返すように,子どもたちの示す音楽的諸形態の細かい観察は,私たちにとって生きた音楽史だともいえる。』
『ハンガリーの民衆を愛することを知らない人も,ハンガリーの子どもたちの遊戯と遊戯うたが織りなす魔法の万華鏡を通して,最も早くハンガリーの民衆を愛することを学ぶだろう。そこからは,いたずらっぽい気取りから,子どもらしいセンチメンタリズムに至るまで,生き生きとした子どもの百相がのぞき,千変万化の姿をもって私たちのまわりをかけ回っている。だから、教育者といわれる教育者はすべて,遊戯うたの世界を詳しく知ることなしには,何事もできはしない。遊戯うたを遊ばずに育ってきてしまった人は,その寂しい幼少時代の穴を一生埋めることはできない。そのような大人の,せめて今からでもできることは,遅ればせにも子どもたちの遊戯うたを覚え,可能な限りその中に身を浸してみることである。それなしには,教育者の相手にしようとする子どもの心は,ついに開かれざる扉として大人の向こうにおかれてしまう。遊戯うたの中に身をおいてのみ,ハンガリーの子どもの魂の中で,世界が,現実が,どのように反映しているかを知ることができるのである。』
〜コダーイ『ハンガリー民謡大観』第1巻「わらべうた」の序文(1951年)〜
例えば日本でも、ある地方では、巫女さんが神がかり(→一種のトランス状態)になるまで人々が一晩中歌い続ける‥といったような神事が今でも残っているそうですし、また、お経や声明などでも、みんなで延々と唱え続けているうちにだんだんと陶酔してきて、自然と声が溶け合い、なんとも美しい響きが生まれてくる‥なんていうようなこともよくありますよね。
ちょっと大袈裟に言えば、子ども達がわらべうた遊びに没頭している時、これと全く同じような現象が起きている‥と思ってください。友達と共に動き、同じメロディーを歌い続ける中で、だんだんと気分が高揚し、声も溶け合ってきて、子ども達は、みんなで声を揃えて歌うことが〝楽しい!〟〝気持ち良い!〟という感覚を知らず知らずのうちに身体に染み込ませてゆくことになります。
‥ ‥ ‥
(‥この講演の最初の方でもお話しさせていただきましたが‥)ハンガリーの保育士さん達は皆、このような原理をよくわきまえていて、子ども達に、この〝ユニゾン〟を美しく歌わせるのがとても〝上手い〟のです。それはもともと保育士さん達が音楽素養を身に付けているから‥、ということもありますが、そればかりでなく、日頃から子ども達と一緒に生活し、子ども達の気持ちを知り尽くしているからこそできる〝職人技〟のようなものなのでしょう。
‥ ‥
しかし日本にも、そのような〝技〟を身に付けた保育士さんはたくさんいらっしゃいますし、小学校や中学校の先生方の中にもいらっしゃいます。コダーイメソッドの指導者を目指す方々は、是非そう言った保育士さん・先生方の授業を見せていただき、そこから〝自然なユニゾンを作る技〟を盗み取ってみることをお勧めします。
‥とは言うものの、ここでそれをただの〝名人芸〟で片付けてしまっては元も子もありませんね。少し、そういった〝名人〟の方々のコツもいくつか箇条書きにしておくことにしましょう。
↓
━━━【ユニゾン名人のコツ】━━━
●日頃から生活の中で良い歌をたくさん歌って聞かせ、子ども達の〝歌いたい〟気持ちを高めている。
●音の高さは高過ぎず低過ぎず、いつも中音域の(D〜H)子ども達が歌いやすい高さを選んでいる。
●いつも先生が子ども達よりも一瞬先にうたい出し、さり気なく音を揃えるのが上手い。
●子ども達が集団の遊びに没頭し、何回も繰り返して歌い続けられるよう、楽しい雰囲気を作っている。
●複数の遊びを繋げる時には、新しい歌と既に知っている歌とのバランスを考え、また曲調もバラエティーに富むようなものを選んでいる。
●歌声がよく揃うまで何回も繰り返させ、十分に満足した時を見計らって、さっとやめている。 etc.
──────────────────── ──)^o^(
そして‥、
実は‥、
〝名人〟の方々から学ぶ技は、これだけではありません。
子ども達の〝聞く〟力を高め、このユニゾンの精度をさらに上げるための楽しい〝音楽遊び〟もたくさん取り入れているからです。
(第20回につづく)
0 comments on “コダーイメソッドとは何か?《連載第19回》” Add yours →