〜【ポリフォニーと和声】⑤〜
合唱の基礎となる〝美しくユニゾンする力〟。それは、わらべうた遊びに没頭して楽しく歌い続ける子ども達の中で、知らず知らずにのうちに培われています。
しかし、それだけでは、まだそれは子ども達の本当の意識的な行為とは言えません。
だって、例えばそれが、気分が乗っている時には音がよく揃うけど、ちょっと喉の調子が悪い時はダメになる‥な〜んていうようなことでは困りますよね。
ですから、ただ漠然と〝みんなで声を合わせていると気持ちがいいなぁ〜〟‥と言う段階から、それがもっと〝自分が一体どのように歌っている時にそうなるのか?〟‥ということが客観的にちゃんと分かっている‥という段階にまで高めてゆくことも必要です。
言い換えれば、子ども達が本当に自分達の声を聞きながら歌っているのか?どうなのか?‥ということなんです。
‥ ‥ ‥
ですが皆さん、これもやってみると分かると思いますが、この〝聞きながら歌う〟って、そんなに簡単なことではありませんよね? 例えば大人でも、大合唱の中でちゃんと自分の声を聞けている‥という人が一体どれだけいるでしょうか?
ですから、この〝聞きながら歌う力〟を付けるためには工夫が必要です。
‥で、そのための一番いい方法は、実は(‥意外に思われるかもしれませんが‥)子ども達を〝歌わせない〟‥ことなんです。
‥ ‥ ‥
例えば皆さん、「なべなべそ〜こぬけ♪」を歌う時に、最初からは歌わずに、後半から歌う‥ということはできますか?
実際にやってみましょう!(前半は先生が歌ってあげますからね‥。) では行きますよ♪
(先生)
なべなべそこぬけー
───────────────────────────────────
そこがぬけたらかえりましょ
(みんな)
いかがですか?‥さすがに皆さん、綺麗にお歌いになりました。‥が、でも、ちょっと難しく感じたところはありませんでしたか?
そうです。‥最初から全部普通に歌うのに比べると、途中から歌うのは、ちょっと集中力が必要だったはずです。
歌い出すタイミングも‥そして音程も‥「周りの人とズレてしまったら大変!」‥と思って、皆さんちょっと緊張してお歌いになりました。よね? しかも、前半のまだ歌っていない部分も、先生の声によく耳を傾けていなければ正しい音程で歌い始めることはできません。
このように、曲の一部だけでも敢えて〝歌わない〟部分を作ることによって、子ども達の〝聞く力〟はぐ〜んと育ちますし、歌い方も格段に注意深いものになってきます。
もしもこれを、もっと高度な練習にしたいのであれば、先生の歌う前半の部分のディナーミク(p〜f)を変えるとか、高さ(調性)を半音ずつ変えててゆく‥などの方法もあります。 ‥ ‥ ‥
さらに、もっとレベルを上げる方法があります。皆さん「なべなべ♪」をもう一度さっきのように歌っていただけますか?‥ただし、今度は先生は声を出しませんよ。つまり前半は完全に〝クチパク〟にしてしまいます。それでも皆さんは後半を歌うことができるでしょうか?‥やってみましょう♪
{※先生‥声を出さずに‥} な(べなべそこぬけー) ──────────────────────────────── そこがぬけたらかえりましょ {※みんなは声を出して‥}
できましたね。皆さんはちゃんと正しい音程で歌い継ぐことができました。でも、どうしてできたのですか?
そうですよね。皆さんはきっと、先生がクチパクをしている間も、心の中で「なべなべそこぬけ」のメロディーを、ちゃんと思い浮かべていらしたのでしょう。
このように心の内部で音を〝聞く〟ことのできる能力を〈内的聴感〉と言います。そして、この内的聴感を養うために行った今のような練習方法を〈サイレントシンギング(→沈黙の歌唱)〉と呼び、コダーイメソッドでは、教育課程の様々な段階で活用されています。(‥例えば→●ハンドサインや楽譜で示されたメロディーを黙って見て、その後すぐに記憶によって歌う。 ●二声曲の一方のメロディーを歌っている時に相手の声部も同時に内唱し、合図があったらすぐに違う声部に移る。‥など‥)
今ご紹介したような手法を組み合わせれば、次のような課題を作ることもできます。 ↓
p crescendo ‥‥‥‥ poco ‥‥‥‥
┌─先生のソロ─┐ ┌──Aさんだけで‥ ────┐
かーごめかごめ か-ごのな-かのと-りーは
‥‥ a ‥‥ poco ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
┌── Bさん ──┐ ┌─Cさん─┐┌─全員─┐
いついつでやーる よあけの ばーんに
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
┌──だまる(サイレント唱)──
つーるとかーめがすーべった
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥forte!
──だまる───────┐ ┌─全員─┐
うしろのしょうめん だーぁれ♪
このような活動をする時には、子ども達が既に暗譜で歌えるようになっている曲、そして少し長めの曲を選ぶことがポイントです。もちろん声の大きさ p→f が変わっても清潔な音程は保たれていなければなりません。ソロを担当する子はあらかじめ決めておいてもいいですが、子ども達に番号札を配っておき、歌の途中で先生が突然示した番号の子(‥あるいはグループの子たち‥)だけが歌う!‥などというのもエキサイティングで楽しい方法です。
‥ ‥ ‥
このような活動をコツコツと積み重ねてゆけば、子ども達のユニゾンの精度はどんどん上がってきます。そして、もしもそれが子ども達自身の本当の〝要求〟になってきたとすれば‥、つまり、子ども達自身が『もうそのように歌わずにはいられない!』‥というぐらいの気持ちになってくれさえしたら、もうその土台の上に美しい建物(合唱)を築いてゆくのは、何の難しいことでもなくなります。
『私たちは,可能な限り早く,子どもたちが自分でうたっていることを同時に“聞く”習慣をつけ,また,いつでも自分自身の喜びがそこにあるようにうたうことを習慣づける必要がある。すでに,私たち教師がそのクラスと顔を合わせる第1時間目から,クラスの調和した響き音色の形成を始めなければならない。そして,子どもたちの心に,自分だけが“目立つ”というのではなく,他の子といっしょに,他の子のクラスの音色の中に自分を見出してうたいたい,といった欲求を育てねばならない。もし私たちがこの仕事に対して充分の忍耐をもちうるならば,その成果はゆっくり,しかし確実にやってくる。』 〜ヘルボイ·イルディコー『普通小学校における多声性,調性及び形式の教授』1976年ブダペスト》〜
さて‥、
子ども達が、清潔な澄み切った声でユニゾンをすることができるようになったとして、その次にすべきことは一体なんでしょう?
そのヒントは、やはり人間が、この〝合唱〟をするようになった、その歴史の中にあります。
(第21回につづく)
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