コダーイメソッドとは何か?《連載第21回》

【ポリフォニーと和声】⑥〜

 子ども達が自分や周りの声によく耳を傾けながら歌うことが習慣となり、また、美しいユニゾンが十分に楽しめるようになってきたとしたら、今度はそれを少しずつ、多声的な歌唱をする力(=複数のメロディーを同時に歌う力)にも繋げてゆかなければなりません。

 しかし、せっかくユニゾンで気持ちよく歌ってる子ども達が『なんでワザワザこんな面倒くさいことしなきゃなんないのぉ〜⁉︎』‥等と思ってしまうような練習になってしまったとしたら、それは全く意味がありませんよね。何かもっと子ども達が楽しみながら知らず知らずのうちに魔法のように合唱を好きになってしまう‥そんな虫のいい方法は無いものでしょうか?

‥ ‥ ‥

 実はあります!‥そのヒントは、歴史の中にあります。

 つまり、ドローン、カノン、オスティナート、ヘテロフォニー、オルガヌム‥など、私たち人間が合唱の黎明期に楽しんで来た、そういった原始的な合唱の形を利用すればよいのです。

 なぜ、このような形がいいのか⁈‥と言いますと、そこには人間の〝意図〟が無いからです。

 つまり、こういった合唱は、もともと誰か特定の作曲家が人工的に作り出した‥というようなものではなく、人々が長く歌い続けている間に自然発生的に生まれてきたものだからです。ですから、そこには〝歌いにくい〟とか〝つられやすい〟と言った無理な要素はありません。極めてシンプルではありますが、子ども達が合唱することを純粋に〝気持ちいい〟〝楽しい〟と感じることのできるような要素がたくさんあるのです。

 『子どもは,祖先の発達を繰り返しているので,子どもの最初の自然な歌唱は,たいてい原始人や,もう少し発達した古代的レベルの前史的音楽のレベルである。』

〜コダーイ『聴衆の教育』(1957年)〜

 ‥ ‥ ‥

 例えば先程の「なべなべ」を、今度は皆さん、2つのグループに分かれて交互に歌ってみていただけますか?

S.なべなべそこぬけ    ▪︎          ▪︎
├───────┼──────┼───────────┼─────────┨
A. ▪︎       ▪︎   そこがぬけたらかえりましょ
                 

↑上の譜面のように書いてみれば、このような交互唱(アンティフォナ)が、既に合唱の最も原始的な形であることがわかりますね。

 さらに、そのことをもっとはっきりさせるために、今度はソプラノの最後の音を長く伸ばして歌ってみてください。

S.なべなべそこぬけ───────────────────
├───────┼──────┼───────────┼────────┨
A.  ▪︎    ▪︎   そこがぬけたらかえりましょ       

 これは、メロディーがどう歌おうが対声は同じ一つの音(‥多くは主音か属音)を長く伸ばし続ける‥という古い合唱のスタイル〈ドローン〉の応用でもあります。

 尚、「なべなべ」の場合には、上段パートの最後の音と下段パートの始まりの音が、全く同じ高さの音ですので、子ども達にとっては比較的易しい課題です。が、これを「ほーずきばーさん」でやってみますと、完全四度差となり、少しレベルの高い課題になります。

(ほ-ずきば-さん)

s.ほ-ず     A.ま め でな
      き      だ が  い
     おくれ───────────────よ───
      

 しかし、いずれの曲の場合にも、最後の音は全く同じ音(同度)になりますので、本当にそのユニゾンがきれいに溶け合っているかどうか?子ども達によく確かめさせることも大切です。

 次に、「なべなべ」をカノンにしてみましょう。カノンも古くからある合唱様式の一つです

S.  な べ な べ. そ こぬ け   
 ├───────┼──────┼───────┼──────┨
A.    ▪︎   ▪︎    な べ  な べ


 そ こがぬけたらかえりましょーーーーーーーー├─────┼──────┼──────┼─────┼──────┼────┨
 そ こぬけ     そ こがぬけたらかえりましょ

 始めはアルト(=遅れてスタートするパート)は、先生一人が担当し、子ども達に『先生はどんなメロディーだった?』『どんな関係になってた?』‥と気づかせる段階が必要です。

 その後、役割を交代して先生が先、子ども達が後に歌います。が、その時に先生の歌い方に微妙な変化を付ければ(‥例えば、cresce.dim.を付ける‥or歌詞の一部を変える‥等)それを模倣する子ども達にとってはより集中力の必要な課題になります。場合によっては先生が突然、似たような別のわらべうたを歌い出し、それをみんなですぐに追いかけてカノンにする‥などの課題も楽しくできるでしょう。

 次の段階では、子ども達を2パートに分けて歌わせてゆくことになるわけですが、最後には必ず各パート一人ずつ‥つまり二人だけでカノンできる‥という段階までやらせてください。歌っている当人達の勉強になることはもちろん、周りの子ども達にとっても〝合唱というものが一体どのように聞こえてくるものか?〟客観的に知ることのできる貴重な時間になります。

『単声から多声への移行は,漸次,しかし体系的に行なわれなければならない。すでに、個々のリズムや音程の要素を学ぶときでさえ,2組に分かれて,交代でうたえば,子どもたちの見出す興味はぐんと増す。それから,カノン歌唱を広めていくことができる。カノンでうたうことは,独立した2つの声部でうたうことへの,最もすぐれた導入である。』

〜「ビチニア・フンガリカ」第一冊のあとがき〜

‥ ‥ ‥

 さて、みなさん‥、

 ここまでの説明で、多声(=ポリフォニー)というのは〝2つ以上の違ったメロディーを同時に合わせる〟ことであることは、お分かりいただけてますよね。

 しかし、その〝違う〟ということの意味に、厳密に言うと二つのことがあることにお気づきでしょうか?

 例えば今のカノンのように、音の〈タイミングやリズムが違う〉ということがメインのポリフォニーの他に、音の〈高さが違う〉ということが重要なポリフォニーもあります。

(第22回につづく)

 

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