〜【ポリフォニーと和声】⑩〜
コダーイメソッドの合唱指導において素晴らしい威力を発揮する〈最強ツール〉をご紹介するのを忘れていました。
そうです!それは、ソルミゼーション(=移動ド唱法)です。
ソルミゼーションについては、すでに《音楽の読み書き》の項目でも詳しくお話しさせていただきましたね。〈子ども達が自立して楽譜を読めるようになる〉‥ために大変に便利で、かつ有効なツールです。
しかし、この合唱指導に於いても、このソルミゼーションは、さらにスーパーヒーロー的な重要な働きをすることになります。
とりあえず下の表を見てください。これは、合唱指導に於けるソルミゼーションの利点を、一覧表にしてみたものです。
👇
【A】子どもたちが楽譜を読んで正しい音で歌える。👇 ①音叉と楽譜さえあれば、ピアノが無くても、いつでもどこでも合唱の練習ができる。 ─────────────────────────────── ②初見で歌えるので、パートの音取りなども必要なく、練習時間が大幅に節約できる。 ────────────────────────────────── ③その結果、当然、レパートリーもどんどん増えていく。 ────────────────────────────────── ④子ども達が、自立的に楽譜を見て練習出来る。 ───────────────────────────────────── ‥etc.‥ 【B】音の調的機能を感じられる。👇 ⑤同じ楽譜を、どのような高さにも移調して歌える。 ─────────────────────────── ⑥(平均律ではない‥)純正な音程を理解し感じながら歌える。 ─────────────────────────── ⑦バランスのよい音量で和音を歌える。 ─────────────────────────── ⑧曲の和声構造・調的構成などを理解した、高度で音楽的な演奏が可能になる。 ‥etc.‥
一つずつご説明します。
↑まず、この表の【A】の①〜④の項目には、ソルミゼーションで子どもたちが〈楽譜を読める〉‥ということだけでも、それが合唱指導上、どれ程メリットがあるのか?‥ということをまとめて書いてみました。
〈楽譜が読める〉‥というのは、ただ単に五線譜上の音符をピアノで弾くことができる‥というようなことを言っているのではありません。コダーイは『目に見たものが聞こえ、聞こえたものが目に見えるようにならなければならない。』と言っています。
楽譜を見て、そのメロディーを正確に心に思い浮かべることができて初めて、楽譜が〈読めた〉ことになります。
ソルミゼーションを使えば、全ての子どもに相対音感を身に付けさせることができ、それが可能になります。
自分の力で楽譜を読み、その思い浮んだ通りの音を声にしてゆきさえすればそれがどんどん美しいハーモニーになってゆく‥、合唱練習がそのような時間になったとしたら、子どもたちはどんなに幸せでしょう❗️
『楽譜を少しでも読んでみようとしている合唱団は,耳から覚えておうむのように繰り返すことよりも、うたうレパートリーや,作品を見る目が10倍も広がり, また練習時間も10分の1ですませることができる。新しい小学校のカリキュラムが, 実行されたからには, 読譜できない大人がほとんどいなくなるのを願っている。』
〜コダーイ『労働者コーラスの国民的重要性』(1947年)〜
しかし、ソルミゼーションの利点・効用は、それだけにとどまりません。ソルミゼーションは、音の持つ機能(調性的な役割)も表しているため、その性質を利用して様々な、より高度な練習が可能になります。
たとえば(上の表の⑤に書いてあるように)ソルミゼーションを使えば、同じ楽譜を他の高さに自由自在に移調して歌うことができます。(※どの調で歌ってもその曲のソルミゼーションの読み方は全く変わらないからです。)
たとえば、ハ長調で書かれた曲の楽譜を使って《今日はちょっと半音低いロ長調で歌ってみましょう♪》‥などと言うようなこともすぐに簡単に出来てしまうわけです。(※これと同じことを、もしも固定ドで歌っている合唱団でやるとしたら、シャープがたくさんついた難しい楽譜を作ってもう一度読み直さなければなりませんよね。)
『ドの位置を変えることは,ハーモニーを知らない人の訓練にも、進歩した人にも使われる。』
〜コダーイ『333の読み方練習』新版のあとがき(1962年)〜
‥ ‥ ‥
さらに、この〈すぐに移調して歌える〉という利点を、発声練習の時にも応用することができます。
: : : r : re : d d : l do do : l l→→s la la→→→→ s : so : : 👆 👆 ※同じ高さの音をここで次の調のソルミゼーションに読み替えて歌う。
↑このような同型反復練習(シークエンス)は、コダーイメソッドの発声練習ではよく使われます。メロディーの最後の音を、次の調のソルミゼーションに読み替えて、ドンドン転調しながら高い音域まで繋げて歌ってゆくのです。
こういった練習は(やってみるとよくわかりますが‥)瞬時に次の調の音程を思い浮かべなければ出来ないため、子どもたちの聴感がとても発達します。コダーイメソッドでは、単に〝声を出す〟ためだけの練習にならないよう、発声の時間にも、常によく音を思い浮かべたり、あるいはよく聞きながら歌う‥ということを子どもたちに要求するのです。
※ちなみに、このようなシークエンスは上行形だけでなく、必ず下行形でも練習してください。
la : :
so so→→→→l :
mi mi : s s→→→l
re : m m : s
: r :
👆 👆
(※読み替え)
『いずれの練習題も上方へと移調し、それから下方に戻ろう。下への移調を疎(おろそ)かにし、上げたままで終わらせないように。既に到着した高さから出発点への戻りは開放感があり、気が弛むため、こうした練習は上方向以上に意味がある。』
〜カルドシュ・パール『合唱の育成・合唱の響き』(1977年 ブダペスト) P、21〜
‥ ‥ ‥
さて、次に、上の表⑥についてご説明します。この⑥に書かれていることは、ソルミゼーションで歌うことの最大の利点‥と言えるのではないでしょうか?
そうです!ソルミゼーションを使って歌えば、平均律では味わえないような純正で美しい音の響きも感じ取ることができるようになってくるのです。
(第26回につづく)
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