【ポリフォニーと和声】⑬〜
「音程を清潔に歌おう!」は、ビチニアのような比較的音域の広い2声曲を歌うような時のために書かれた練習曲ですから、子ども達が中学年以上になってから始めるのが適当でしょう。
しかし、それは、それ以前の段階で子どもたちに音程練習をさせてはいけない、という意味ではもちろんありません。
むしろ低学年の頃から、ソルミゼーションを使った多声的な活動を遊びのようにして取り入れてゆけば、子どもたちの学習は、どんどん楽しく、効果の上がるものになっていきます。
『私は、2声歌唱の初歩が,すでに,小学校で子どもたちが音符を知らない段階でも,ハンドサインや移動ド階名を使って始められることに、何の不都合もないと思う。2声歌唱練習を早くから使えば,読譜の習得も,そして少なくとも、読譜の音程をとる部分だけでも,もっと能率が上がる。』
〜「音程を清潔に歌おう!」のまえがき〜
例えば、〈re-do〉あるいは〈la-so〉という、わずか2つの音を習った段階でも次のような多声課題が作れます。
❶『なべなべそこぬけ』をハンドサインしながらソルミゼーションで歌ってみましょう。 👇 レ レ レ レレ レ‥ \ド/ \ド/ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥❷『レ』だけを歌う係、『ド』だけを歌う係の二組に分かれて歌ってみましょう。 S, レ レ レ レレ レ‥. ├─────────┼───────┼────────┼─── A、 ド ド ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ❸先生がハンドサインで示した音を、長くゆっくり伸ばして歌えますか? 👉レーーーーーーー ドーーーーーーー ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥❹みんなは先生のハンドサインする『レ』の音を長く伸ばして歌っていてください。でも先生は同時に『なべなべ』をソルミゼーションで歌いますよ。(釣られずに綺麗に伸ばして歌えるかな?) S, レーーーーーーーーーーーーー ├────────────────────────────── A、 レ ド レ ド レ レレレー ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥❺その反行形もやってみましょう。 S, ドーーーーーーーーーーーーーー ├────────────────────────────── A、 ド レ ド レ ド ドド ドー ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ❻二人組でも練習してみましょう。
日本のわらべうたは、長二度という狭い音程を軸にしてできていますので、西洋の和声学では〈不協和〉とされているこのような長二度の重なりも、子どもたちは、ごく自然に楽しむことができます。むしろ、このように〝ちょっと難しい課題〟に挑戦することは、子どもたちの音高に対する意識を、より研ぎ澄まされたものにしてゆきます。
3音のわらべうたを使えば、さらに多彩な課題作りが可能です。
❶『からすからす』をハンドサインしながらソルミゼーションで歌いましょう。 👇 m ミーミミ r レーレレ レ‥ d ドドドド (かーらすかーらすどごさいぐ? ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ❷カノンにして歌ってみましょう。 S.ミ-ミミ レ-レレ ドドドド レ ├───────┼──────┼──────┼──── A. ミ-ミミ レ-レレ ド‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ❸先生のハンドサインを見て、二組に分かれて歌いましょう。 ミーーーーーー ミーーー \ / レ レ \ / ドーー ドーーーーーーー ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥❹耳からのカノンで‥。(先生の歌とハンドサインを見て、一小節遅れで追いかけていく。) S.ドレ ミ ミレ ド ミド ミミ ドーー ├────┼───┼───┼───┼───┼───┼───┼ A. ドレ ミ ミレ ド ミド ミミ ド etc. ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ❺反行カノンで‥。(先生の歌とハンドサインを見て、上下反行形で追いかけてゆく。) S.ドレ ミ ミレ ド ドミ ミミ ドーーー ├────┼───┼───┼───┼───┼───┼───┼── A. ミレ ド ドレ ミ ミド ドド ミー ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥❻自由な2声曲で‥。 👇 S.ドミ ドド ミレ ド レレ レレ ドレ ミ ├─────┼───┼───┼───┼───┼───┼───┼─── A. ドレ ミ ミレ ド
❸〜❺は、ハンドサインを用いた方法です。先生と子どもがこのように歌い合うことは、お互いの信頼関係を育てることにも役立ちます。
次の段階では、クラスを2つに分けて歌いますが、最後は必ず二人で二重唱をするところまでもっていきます。
最後の❻のような課題をやってみれば、このような〈レター譜〉が如何に便利でわかりやすいものかが、よくわかるでしょう。その場合も二人の子がお互いにハンドサインをしながら歌えば音程はより確かなものになります。
また、それを五線譜に書いて二人組で練習すれば、楽しい読譜の課題にもなります。
『早くから2声をうたう練習が大切である。最初はハンドサインで,次はレターサイン,生徒が読むことができるならすぐ楽譜から。』
〜コダーイ「聴衆の教育」(1957年)〜
『単声から多声への移行は,漸次,しかし体系的に行なわれなければならない。すでに、個々のリズムや音程の要素を学ぶときでさえ,2組に分かれて,交代でうたえば,子どもたちの見出す興味はぐんと増す。それから,カノン歌唱を広めていくことができる。カノンでうたうことは,独立した2つの声部でうたうことへの,最もすぐれた導入である。』
〜「ビチニア・フンガリカ」第一冊のあとがき〜
もう一つ、楽しい方法があります。片方の声部が、先生のハンドサインでロングトーンを歌って行く間に、もう片方の声部は同時に、みんなが既によく知っているわらべうたのメロディーを歌うのです。例えば‥👇
S.ドーーーーーー レーーーーーー ミーーー
├─────────────┼─────────────┼──────
A.でんでらりゅば でてくるばってん でんでら
ーーーー ソーーーーーー ミーーーーー‥etc.
──────┼────────────┼─────────────
れんけん でーてこんけん こんけられんけん‥
もしも子どもたちが、このような課題をクリアーできるようになっていたとしたら、それはもう既に、作曲家が編曲した2声〜3声の合唱曲を歌う準備が十分に整っている、と言うことになります。
なぜなら、例えばコダーイの合唱曲などは、そのほとんど全てが、実はこのようなわらべうたとソルミゼーションの組み合わせで出来ているからです。
(第29回につづく)
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